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米国のダウ平均株価は、この日、たった一日で前日比五○○ドルを超える下げを記録した。
由緒ある投資銀行倒産の歴史的な場面を報道しようと、ニューヨークのRm本社の前にはテレビ・カメラが殺到した。
ニューヨークの七番街七四五番地。
私にとっては馴染みの深い本社ビルの中からは、Rmの社員が次から次へと出てきた。
多くの社員がダンボールを小脇に抱えていたのが目を引いた。
会社に残していた私物をダンボールに詰め込んで、もう二度と来ることはないであろう本社ビルを後にしてきたのだ。
「これは一○○年に一度の金融危機だ」「まるで空が落ちてくるようだ」実況中継のレポーターはテレビ・カメラを前にこう叫んでいた。
ノマン・ショックは大恐慌につながるのか金融システム崩壊の瀬戸際問題はRm社に限るものではなかった。
長く米国では五大投資銀行と呼ばれる五つの投資銀行が織烈な競争を演じ、鏑を削ってきていた。
そのうちの一社、BS社は、すでにその年の三月にJMに吸収合併されていた。
そしてRm、ベアーのほかに、残る大手投資銀行三社(MRmG、GS)のいずれもが、Rm破綻後一週間もしないうちに、他社に吸収合併されるか、業態の変更を余儀なくされた。
すなわちRm破綻と同じ日、九月十五日に、MRは、BOAに吸収合併された。
そしてその六日後、九月二十一日には、MGとGSが、銀行持ち株会社へと業態変更させられた。
さらにこの両社に対しては、その後、一カ月もしないうちに、各々一○○億ドル(九五○○億円)に上る公的資金の注入が行なわれることが決定した(十月十三日)・歴史と伝統を誇っていた米国の大手投資銀行五社のいずれもが、消滅するか、あるいはたとえ残ったとしても、今までの形で存続することがもはや許されなくなってしまったのだ。
投資銀行として残ったのは、中堅のRFといった投資銀行や、ブティックと称される、特定分野に特化した投資銀行だけになってしまった。
それが二○○七年から顕在化したSP問題の深刻化に抗しきれずに、とうとう一五八年の歴史に幕を閉じてしまったのだ。
投資銀行だけでなく、シティバンクやBOAなどの商業銀行も崩壊寸前となった。
Aなどの保険会社倒産の危機に瀕した。
保険会社は、投資銀行が組成した証券化商品を投資目的で保有したり、CDS(クレジット・ディフォールト・スワップ)と称する一種の保険のような仕組みで、証券化商品を保証していた。
異常事態を目の当たりにして、米国政府は、総額七○○○億ドル(六七兆円)に及ぶ支援を盛り込んだ「金融救済法案」を議会に提出。
ところが米議会下院はいったんこれを否決してしまう(二○○八年九月二十九日)。
ウォール街の金融機関を税金で救う。
このことに対する米国民の反発を、議員たちが恐れ下院での否決を受け、米国のダウ平均株価はつるべ落としの勢いで暴落した。
九月二十九日のたった一日で、七七七ドルもの下落となった。
七七七ドルの下落額というのは米国史上、最大の下げである。
もはや事態の深刻さは、「悪いのは強欲なウォール街だ」といった勧善懲悪を論ずるとか、目先の国民感情を考慮するとかしないとか、そういったレベルをとうに超えてしまったのだ。
この世界を形作っている金融システム全体が崩壊するかもしれない。
その瀬戸際に達してしまったのだ。
未曾有の危機のさなか、米議会は修正法案を再度審議して十月三日にこれを可決。
これを受け米国政府はただちに大手の商業銀行各行に対して、それぞれ二五○億ドル(二・四兆円)に及ぶ公的資金を注入した。
しかし、一五八年も続いたRm・ブラザーズを破綻に追い込んだ今回の危機は、これで終馬するほど甘いものではなかった。
一カ月もしないうちにシティバンクの状況は二五○億ドル(二・四兆円)の公的資金注入だけではまったく足りないことが露呈してしまう。
米国政府はシティに対して追加の二○○億ドル(一・九兆円)の公的資金を注入するとともに、シティが抱える二一○六○億ドル(二九兆円)の不良資産について、二四九三億ドル(二四兆円)までを政府で負担することを決めた(十一月二十二一日)。
シティー行だけに使われる公的資金は、当初の二五○億ドル(二・四兆円)を含め、総額二九四三億ドル(二八兆円)という天文学的な数字になる可能性が出てきたのだ。
さまざまな要因が後付けで指摘されているが、最大の要因は証券化ビジネスの破綻にあるだろう。
これほどまでの未曾有の金融危機が、どうして生じたのだろうか。
本来、証券化とは、貸し手と借り手との「一対この関係からなるローン債権を、有価証券の形にして流動性を持たせる仕組みである。
YT銀行(仮称)がydさんに貸した住宅ローンを、有価証券の形にして、yI生命(仮称)に転売する。
こうすれば、YT銀行は、資産としてydさんに対する住宅ローン債権を持つ必要がなくなる。
その分、身軽になるのだ。
もちろんYT銀行は、yI生命に転売するに際して、若干の手数料を徴収する。
yI生命してみれば、一件一件、住宅ローンの内容を吟味することなく、まとめて有価証券になったものに投資することにより、手間ひまが省ける。
住宅ローンを借りているydさんや、ymさん、STさんなど、ローンの借り手、一人ひとりと会うことすら必要ない。
たもう一つの大きな利点は、大数の法則が働くことだ。
大数の法則とは、ある試行を数多く行なえば、確率は一定値に近づくという法則だ。
たとえば、サイコロを振った、ときに出る目は、回数が少ない、ときにはどれかの目に偏る可能性があるけれど、数多く振れば、どの目が出る確率も六分の一に近づいていく。
一例を挙げれば、保険というものは、この大数の法則の考え方に基づいて成り立っている。
何歳で死亡する割合は何パーセントかとか、何歳でガンにかかる可能性は何パーセン卜かなどは、保険のように契約者数が多数の場合には、ほぼ一定の水準に収散するのだ。
この種の証券化ビジネスは、資産としてリスクを抱え込み、金利収入を当てにするよりも、手数料ビジネスを強化したい金融機関にとっては、魅力的なビジネスであった。
さらにこの種の住宅ローンを幾つかまとめて転売することにより、規模のメリットも働で、それに基づいて、保険料などを計算することができて、保険会社の経営を安定して成り立たせることができるわけだ。
住宅ローンの場合では、一件一件であれば、仮にydさんが住宅ローンを返済できなくなった場合の痛手は大きい。
しかし、それがたくさん集まれば大数の法則が働く。
一万件のローン債権を集めてくれば、そのうちの倒産確率を算出し、それに見合う以上の金利収入を得るように証券化商品を設計すれば、投資として採算に合うという計算が成り立つ。
好都合なことに、集合体である証券化商品には格付け機関が格付けを付与してくれて、統計学的に算出された倒産確率を知ることもできた。
機を見るに敏な投資銀行は、一種の住宅ローンの証券化ビジネスが非常にうま味のある商売であることに目をつけたのだ。
商業銀行や住宅ローン会社が作った住宅ローン債権を集めてきて、これを束にして、有価証券の形にして機関投資家に売る。
そこで手数料を稼ぐというビジネスである。
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